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最高裁判所第一小法廷 昭和53年(オ)1374号 判決

更生会社日本開発株式会社管財人

上告人

仁分百合人

右訴訟代理人

西迪雄

外二名

被上告人

本間英孝

外六名

右七名訴訟代理人

松本昌道

外三名

主文

原判決中、上告人の控訴を棄却した部分を破棄する。

前項の部分について本件を東京高等裁判所に差し戻す。

理由

上告代理人仁分百合人、同西迪雄、同吉田豊、同種田誠の上告理由について

原審は、(1) 本件倉庫は、壁及び扉などにより区分された本件建物の部分であるが、ブロックの壁で仕切られた第一倉庫及び第二倉庫の各部分から成り、いずれの部分にも本件車庫、電気室、一階正面のロビー等に通ずる通路部分への出入口がある、(2) 第一倉庫には一四区画、第二倉庫には三区画の物置がブロック壁に接して並置され、本件建物の区分所有者の一部の者に利用されている、(3) 第一倉庫の床には汚水及び雑排水の各マンホールがあり、また、第一倉庫の内側の壁の一部には本件建物の共用設備である電気のスイッチ、積算電力計の配電盤並びに換気、汚水処理及び揚水ポンプなどの動力系統のスイッチがはめこまれており、右スイッチの操作のため、本件建物の管理人が一日三回程入庫しなければならないが、第二倉庫には配電盤もマンホールもない、(4) 第一、第二倉庫の各天井の高さはいずれも約2.89メートルであるが、床から約2.05メートルの高さの部分のいたるところに直径約一五センチメートルから同三センチメートルまでの大小の電気、水道等のパイプが通つており、右パイプは、物置の上側にある部分は金網で覆われているが、その他の部分は露出したままになつている、との事実を確定して、右事実関係のもとにおいては、本件倉庫は、第一倉庫及び第二倉庫のいずれも区分所有権の目的とすることができず、建物の区分所有等に関する法律三条にいう構造上区分所有者全員のための共用部分たるべき部分にあたるものと認め、被上告人の本訴請求のうち本件倉庫に関する部分を認容した。

しかしながら、一棟の建物のうち構造上他の部分と区分され、それ自体として独立の建物としての用途に供することができるような外形を有する建物部分であるが、そのうちの一部に他の区分所有者らの共用に供される設備が設置され、このような共用設備の設置場所としての意味ないし機能を一部帯有しているようなものであつても、右の共用設備が当該建物部分の小部分を占めるにとどまり、その余の部分をもつて独立の建物の場合と実質的に異なるところのない態様の排他的使用に供することができ、かつ、他の区分所有者らによる右共用設備の利用、管理によつて右の排他的使用に格別の制限ないし障害を生ずることがなく、反面、かかる使用によつて共用設備の保存及び他の区分所有者らによる利用に影響を及ぼすこともない場合には、なお建物の区分所有等に関する法律にいう建物の専有部分として区分所有権の目的となりうるものと解するのが相当である。

これを本件についてみると、原審が認定した前記事実によれば、第二倉庫は、構造上他の部分と区分され、それ自体として独立の建物としての用途に供することができる外形を有する建物部分であるが、他の区分所有者らの共用に供される設備として、床から高さ約2.05メートルの高さの部分に電気、水道等のバイプが設置されているというにすぎず、右共用設備の利用、管理によつて第二倉庫の排他的使用に格別の制限ないし障害を生ずるかどうかの点についてはなんら明確にされていないから、原審の認定した事実のみでは、少なくとも第二倉庫についてはそれが建物の区分所有等に関する法律にいう建物の専有部分として区分所有権の目的となることを否定することはできないものといわなければならない。そうすると、原審が、右の点を斟酌することなく第二倉庫を含め本件倉庫全体を共用部分であると判断し、本件倉庫についてされた所有権保存登記の抹消登記手続を認容すべきものとしたのは、建物の区分所有等に関する法律の解釈適用を誤つた違法があるといわざるをえず、論旨は理由がある。したがつて、原判決中、上告人の控訴を棄却した部分は破棄を免れず、さらに審理を尽くさせるため、これを原審に差し戻すのが相当である。

よつて、民訴法四〇七条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文の通り判決する。

(中村治朗 団藤重光 藤﨑萬里 本山亨 谷口正孝)

上告代理人仁分百合人、同西迪雄、同吉田豊、同種田誠の上告理由

一、原判決並びに控訴審判決はいずれも本件倉庫は、建物の区分所有等に関する法律第一条にいう「独立して建物としての用途に供することができるもの」には該当しないと判断し、その理由として、本件倉庫は本件建物の他の部分と壁及び扉をもつて区画されていることは認めつつも、その内容には本件建物の維持管理上必要不可欠な電気・水道等を操作するための配電盤・各種配管等の共用設備が設置されており、その操作のために管理人が一日数回も出入りしなければならないのであるからとし、更に控訴審判決においては「少なくとも右共用設備が存在する部分及びその操作並びに維持管理のために必要な部分は区分所有の対象となるべき部分ではなく……共同部分たるべき部分にあたるものというべきであり、したがつて、前記物置が設置された部分を他の部分と区画して、これを区分所有の目的とするのであれば格別、かかる措置をとることなく……区分所有の目的とし」とするが右認定が法律の解釈を誤るものであることは明白である。

けだし、本件倉庫が右理由のごとき性質を有しているとしても、

(1) 本件倉庫は右理由のとおり壁及び扉等により区分された二部屋の部分からなり、本件建物の他の部分から構造上独立しており、本件建物の他の部分と明確に区分されている。

殊に、本件倉庫のうち第二倉庫部分の本件建物からの構造上の独立性は原審、控訴審のいずれにおける検証の図面、写真等からみても明確である。

(2) 本件倉庫がマンションの一部特定住人らにより利用されているとしてもいわゆる貸ロッカー的なものとして、個別的な賃貸借契約にもとづいて利用されているものであり、売買賃貸借等の対象になり得る部分で、本件倉庫の各利用者は利用権者として随時自由に利用できる状況にある。

(3) ちなみに、本件倉庫のうち第一倉庫とされている部分の入口右側の壁には本件建物の管理上の配電盤等又、床にはマンホール等がそれぞれ設置され、必要な際管理人が出入りしているが、このことは壁の配電盤及び床のマンホール等がその部分に限つて本件倉庫の倉庫としての利用を個別・特定的に制限するにすぎず管理人が配電盤等の調整の為に出入口を共通にしていても右配電盤設置部分と倉庫部分は構造上明確に区分されており、本件倉庫がいわゆる利用上の独立性を有しているという性質をいささかも変質させるものではない。

(4) 又、控訴審判決は前記のとおり「前記物置が設置された部分を他の部分と区画して、これを区分所有の目的とするのであれば格別」とし、本件倉庫内における各種共用設備を備えた部分を本件倉庫部分から客観的に特定したうえ区別すれば、本件倉庫の目的に専ら供する部分を専有部分となしうることが出来るかの如く認定しているもので、これは本件倉庫は原則的として区分所有の対象たる性質を有するが、前記各種共用部分により限定的に共用部分化されているとみるのが社会生活上の観念に副うものである。

そうであるならば部分的に各共用設備を有していても、これを全体としては区分所有の目的とするとするのが妥当である。

(5) 更に、床下給排水、天井内配線、配管が各階に設置されていての総合構造がマンション構造の基本的なもので、このような設置の存在することを理由に構造上、利用上の独立性を決することはマンション構造を無視するもので不当である。

従つて、本件倉庫内に地下及び天井の給排水管理装置が設置されていることも右マンションの基本構造上当然のことであり、又右配管設備に覆いのないことが倉庫としての区別及び使用になんら支障がないということからして、そのことをして本件倉庫とりわけ第二倉庫部分が構造上、利用上の独立性の存しない理由とすることは許されない。

二、本件倉庫部分が右のとおりの構造、性質を有している限りその利用上の独立性は社会的常識においてもあまりにも顕著であり、この部分が建物の区分所有等に関する法律第一条にいう「独立して建物としての用途に供することができるもの」として構造上、利用上の各独立性を有していることは明白であるし、本件第二倉庫部分と、第一倉庫部分を区別することなく一律に判断し、区分所有の目的にあたらずとするのは法解釈を誤るものである。

三、よつて上告人は上告の趣旨記載のとおりの裁判を求めるものである。

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